電車に乗ってるあたまの中

小説「白の向こう側」について掲載中です。


白の向こう側・・おさないころの、あの世界、おぼえてますか

THEMEが各小説のタイトル毎のカテゴリとなっています。

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目撃

最寄駅では、「バリアフリー」を目標に、エレベータ設置工事が

かれこれ3ヶ月続いていた。


そんなに続くものなのか。


周囲の人間は、この工事中の光景に対して

感覚が麻痺してしまったようで、

工事中部分を

まるでもともとある障害物のように、

器用によけて足早に通り過ぎていた。


しかし自分は、毎日、工事の進捗具合が気になり

横目で観察していた。


いまのところ、目立った進捗、なし。



そんなある日、見てしまったのだ。


夜中11時すぎ。

残業で遅くなり、腹をすかせながら工事現場を通りかかった際。


工事現場のライトに照らされた道路の「穴」

の中に数人の男が担架のようなものを

取り囲んで立っている。


そして、その担架を覆うように広がる白い布の上端から

女のような顔、正確に言うと、目から上の部分が

除いている。


目は見開いている。

鼻から下は隠れているため、

確かな表情はわからないが、

目だけをみると、無表情。


驚きのあまり立ち止まってしまった。

まわりの通行人は、何事もないように通り過ぎていく。



死んでいるのか?


異様な光景に目を凝らそうとした瞬間。


女がこちらを見た。

無表情に。


全身毛穴がざわつき、

逃げるようにその場を去った。


それから1ヶ月。


今、私は完成したエレベータを

未だ利用できないでいる。


私の髪

「結婚してしまったんだね・・・。

この髪も、もったいないよ」


10年来の長い長い、そして手入れの行き届いた

美しい、私の髪。


その髪を、結婚式が終わったと同時に、

これまた10年来の付き合いの美容師にきってもらった。


鋏を入れる美容師。




妙なことに気が付いた。


通常、切り落とした髪は、床へと落とすが、

なぜか、一束、一束、するりと一撫でしてから

ゴミ袋へと入れる。



どうしてそんなことをするのかと問うと、

左眼の下瞼を痙攣させながら、

「別に意味はないですよ。

ほら、人一倍長い毛だから、そのまま床に落とすと

すごいことになっちゃうだろ」



それからは、普通に会話も弾み、

すっかり軽くなった頭と共に

店を後にした。




数日後、美容師が変死体で発見された。


腹の中からは、おびただしい量の・・・。


THE END

手、だ。



電車の待ち時間、ポケットに手をつっこんだ。

そしたら、ポケットの中で、


手が


握り返してきた。



大きく

つるりとした石の

指輪を

しているようだ。



先月死んだ、ばあちゃんかな。

白の向こう側 vol.8 -最終回-

ナミコとの再会を迎えてから数日後。


ナミコの昔の顔を見ようと、

小学生の頃の卒業アルバムをめくっていた。

最後の真っ白い頁には、友達それぞれが、

思い思いに寄せ書きをしてくれている。


その中に、隅っこのほうに、

ピンク色の小さな文字でぎっしりとコメントが

書かれているのが、目に止まる。


『☆大好きなりっちゃんへ☆


りっちゃんと遊んだこととか、

みんなでクッキー作り大会をしたこととかが

楽しかったよ!

またやろう!

ちがう学校になるけれど、

ずっと友達でいてね。

最後はあまりしゃべれなかったけど、

りっちゃんはいつも優しくて大好きでした。

また、お話しようね!


☆ナミコ☆』

今まで、このコメントに気付かなかった。

いや、もしかしたら、後ろめたさで

見ないようにしていたのかもしれない。


次に繋げよう、繋げよう、とする気持ちが

文面から染み出してくる。

先日みた、ナミコの悲しい姿と重なり、

心の中で、

「ナミちゃん、ごめん。

さみしかった・・・?」と

つぶやいた。


*------------*


数ヶ月後。

再びナミコは驚くべきかたちで

私の目の前に姿をあらわした。


ナミコはなんと、テレビの中から

あの張り付いた笑顔を、こちらに向けてきたのだ。


ニュース特番のような番組は、

がなりたてるレポーターの声がうっとおしい。


「今、世を騒がせている謎の団体、

『白い光の教えの会』代表のフジモト氏と

その『ツマ』となる

ナミコ夫人が現われました!


お聞きください!この信者たちの歓声を!」



むおーっという、奇妙な轟音をたてる

観衆、信者と呼ばれる人間たち。


私は、何がなんだかわからないまま、

テレビを食い入るように見つめた。

レポーターの唐突なコメントを

頭の中で反芻する。


『白い光の教えの会』という言葉から、

最近ワイドショーや、俗悪な週刊誌で

騒がれている、インチキまがいの

集団が思い浮かんだ。


その集団の「代表」とよばれる親玉が、

「フジモト」という人間だとは連日の報道で知っていたが、

今、テレビの中で、ナミコと並んでいる「フジモト」は

紛れもない、成人式の「フジモト」であった。

轟音と化した歓声の中で、

ナミコとフジモトは真っ白な結婚衣裳に

身を固めている。


口元だけが、左右上方向にぐっと引っ張られ、

目は虚ろな、あの笑いを

お互いに投げかけあっている。


レポーターから向けられた、無数のマイクに対し

ナミコが叫んだ。


「私は!

幼い頃、白い神に出会いました!

神はわたくしを、救ってくれました!


しかし!

心の淀んだ方ばかりで!

誰も信じようとはしませんでした!


今、同じ神を信じる、多くの大切な人にめぐり会え、

更に、神に一番近い方と共になろうとしております!

皆様も、ご一緒に!」


その、悲しい叫びに、あの小6のかなしいできごとが、かさなる。


「『白い光』?

あの時のこと、もしかしてまだ引きずっているの?



・・・私のせい?」


混乱と同時に、つと涙がほほに道を作った。

カレンダーは、偶然にも

今日が3月3日であることを

示している。



ナミコ、壁の向こうから、まだ出れてなかったんだね。



「次3の日に、次の子が。」

「白い壁を触るまで」



「出れないんだって」


ナミコから差し延べられた画面上の手に、

自分の手を重ね合わせる。


パチパチ、

と静電気がはじける音がしたと同時に、

ナミコが、

笑った。

いや、正確にいうと、

笑った気がした。


目の痛くなるほどの真っ白い光の中で

こちらに手を差し伸べる、その顔は、


逆光で真っ暗い闇に包まれていた。

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the end

白の向こう側 vol.7

すっかり疲労しきった私は、

式には出ないで、うろうろしていた友達と合流し、

そのまま飲み会へとなだれ込んだ。


ナミコとの今日の出来事も、

お酒の勢いで忘れかけた、その時。


数人の小学校時代の仲間とともに、

ナミコが店に入ってきた。

ナミコは明るく

「みんな久しぶり!」と声をかけた。


数人が

「だれ、あれ?」

と囁いたが、ナミコはどかどかと座敷に入りこみ、

私の隣に座った。

先ほどまで結い上げていた黒髪が

じっとりと肩の辺りに溜まっている様が、

なんとも気味が悪い。


「りっちゃん、昼間はごめんね。

私も、どうかしていた。

フジモトさん、あ、私の婚約者なんだけど、

あんな風に『気』を荒立てると、

『白いカミ』がナミコを見放すよ、

っておっしゃってくれて。

すごく反省したわ」


一気に押し寄せる言葉の波に、

私は一瞬混乱した。


『コンヤク』?

『白いカミ』?

『見放す』?


驚きに目を白黒させてる私に対して、ナミコは

いとおしげに微笑み、

「大丈夫、昔から判ってた。

りっちゃんは、物分りがいい子だって。

でも、ちょっと流されやすいところが、いけないわね。

素直になって。

そうすれば、あなたにも

『白いカミ』が手を差し伸べて、

『そちら側の世界』から救ってくれるわ」


気味の悪い、その、呪いのような言葉に思わず


「やめて!」


と大声をあげてしまった。


すると、ナミコはあからさまに嫌悪の表情を浮かべ、

「まだまだ、だめね。

大丈夫、安心して。

私、こうなったら、あなたを『そちら側』から救ってあげる。

3の時間、にね。」


そういい捨てると、すっくと立ち上がり、

ものすごい勢いで、飲み会を去っていった。


周囲にいた人間は、心配げに、

「大丈夫?りっちゃん。何があったの?」

と声を掛けてきた。

しかし、極度の緊張からか、頭痛がなおらず、

楽しそうにはしゃぐ友を横目に、

足早にその場を立ち去った。


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第8話へつづく

白の向こう側 vol.6

私とナミコの間に立ちはだかったものは、

人間の男性だった。

丁度、30後半くらいだろうか。

背がすらりと高く、見栄えもいい。

整髪料でなでつけた髪が気になるが。


その男が私に向かって

「すみません」と、言葉を吐いた。

すると、後ろにすっかり隠れて見えなくなったナミコが

「フジモトさん!」とさっきとは打って変わって

明るい声でその男を呼んだ。


すると、フジモトと呼ばれた男は、ナミコに振り向き、

「ナミコ、人前で取り乱して、はずかしいぞ。

さ、式も始まるんだ。行こう。」

と笑顔のままナミコを嗜めた。


するとナミコは落ち着きを取り戻し、

再び張り付いた笑顔で、

「じゃ、りっちゃん、またね」と

何事もなかったように去っていった。

去っていく途中、フジモトとナミコは顔を見合わせ、

笑った。

いや、ちがう。笑う風にみせた。

お互いの顔は、不自然に張り付いていた。



白の向こう側 vol.5

先ほど一瞬見せた穏やかな笑顔は

ナミコのやつれた顔から消え去り、

また目だけ爛々と輝いた、張り付いた笑顔へと戻っていた。


なぜか私は、恐怖のどん底に突き落とされる思いと、

昔のナミコに対する、小さいけど大きい仕打ちへの恥ずかしさで、

グラグラと目の前が揺れるのを感じた。


「あ・・・あの時は、ごめんね」

私は上ずる声を絞りだし、ナミコに謝罪した。

すると、意外なことにナミコはきょとんとした

顔をし、

「え?やだ、まだ気にしてたの?」と。


そして、あの、小6のときと同じ、堂々とした態度で

「でも、そうだなー。あの時、みんな信じてくれなかったけど、

「白い世界」へ行ったって、あれ、本当だったんだよ。」

といった。


私は思わず、眉間に皺をよせ、

「え・・・?」

といってしまった。しかし、今度は眉間の皺を伸ばす余裕がない。


そんな私に構わず続けるナミコ。


「あの夜、白い壁にぐいぐい吸い込まれていくとき、

私、本当に怖かった。

恐怖で声がでなくて、涙はあふれて、

心の中で『神様!』って叫んだわ。


そしたら。

現れたのよ、神様が。

真っ白な世界と同じくらい、顔はまぶしくて

よく見えなかったけど、大きなやさしい手をしてて。

大丈夫、こっちだよ、って

手を引いてくれたの。


気付いたら、家の台所の壁際に戻ってたわ」



・・・なにいってんの、このコ・・・。


呆気にとられながらもなんとかして

「やだ・・・からかわないで、ナミちゃ・・」

といいかけたと同時に、遮るようにナミコが

大声を出した。


「からかってなんかないわ!

あの時だってそうだった。

りっちゃんがあんな大声だして、騒がなければ!

私だってあんな思いをしないで済んだのよ!!」


その一言に、頭が真っ白になる。

・・さっき、「もう気にしてない」っていったじゃない・・・

いや、違う、そんなことはどうでもいい。

このコ、、狂ってる。


興奮でぐりぐりと大きな目を動かすナミコは、

はっきりいって、不気味以外のなにものでもなく、

早くこの場を立ち去りたかった。


すると、目の前に視界を遮る

何かが現れた。


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第6話へつづく

白の向こう側 vol.4

クラスメイトみんな、ナミコのその

堂々とした口調と、それとは正反対の

突拍子もない、なんとも馬鹿げた話に、

度肝を抜かれ、しばし、沈黙が訪れた。



そこに、カナエが割って入った。


「ナミちゃん、ばかじゃないの?

そんなウソ話いっちゃってさー。


つーかさー。前から思ってたんだけど、

ナミちゃんって、ちょっと頭良くて、

私立受かったからって、うちらのこと

馬鹿にしてんじゃん?


うちらがバカだから、そんなウソッこ話、

信じると思ったんでしょ!」


この言葉に、つぎつぎと子どもたちは

目を見開いた。


カナエの一言により、集団感染のように

憎悪の目がミナコに向けられる。


すると、カナエがとどめののように、こちらをぐるりと向き、

「ね!りっちゃん!

りっちゃんだって、むかつくよね?!」

と私に問いただしてきた。


え・・・いまは、嘘つきかどうか、という話で

むかつくとかじゃ・・・

と、我ながら冷静に考えたが、

クラス中にうずまく「イエスといえ」という

憎悪に押し込まれ

蚊の鳴くような声で


「うん・・・むかつく」

と言ってしまった。



その時の、ナミコの呆然とした表情は

今でも忘れられない。


それから、卒業式までの間、

ナミコは「はぶ」の状態になり、

彼女にとっては、辛く長く、そして無駄な

時間だったと思う。


その後は、中学も分かれてしまい、

どんな人生を彼女が送ってきたかは判らないが、

目の前のげっそりとした、その要望を

見る限りでは、

決して「幸せそう」ではなかった。



ぼんやりとナミコの姿に、昔を思い出していた、その時。


「りっちゃん、あの、『白い世界』のこと、

覚えてる?」


自分の心を見透かすかのような

ナミコの発言に

胸の奥のほうが、ズン、と一回

大きく波打った。


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第五話へつづく


白の向こう側 vol.3

その答えに、幼い私はいらつき、

「ナミちゃんのうそつき!

向こう側なんかに、いけるはずないじゃん!

からかわないでよ!」

と声を張り上げた。


その声に驚いたクラスメイトたちは、

野次馬でわらわらと

ナミコと私の周りに集まってきた。


「なになに?」

「どうしたの?」

「え?ナミちゃんが、白い世界に行ったって?」

「で、一晩で戻ってこれたって?」

「えーーーー?うそ」

「ほんと?」


わーわーと小うるさくまとわりつくクラスメイトの

高い声。

じゃれあう子どもたち。



それとは正反対の、落ち着いた大人っぽい態度で、

「うそじゃないよ。

ほんとに行ったの。

お父さんの時計を借りて、3の時間に台所の壁を

触ったのよ。」

と、答えるナミコ。



みんな、恐怖とも興味とも、からかいともとれない

複雑な視線をナミコに集中させた。


「そしたらね、

にゅーって。

壁がスライムみたいにやわらかいな、って思ったらね、

ぐいぐい吸い込まれて、戻れなくて、

気が付いたら目の前が真っ白で

ものすごく眩しかったの。」

と、構わずナミコは続ける。


その堂々とした態度につられ、みんなは食い入るように

話を聞いている。


と、そこで、ナミコとはライバルみたいな存在の

カナエが声をあげた。


「ぷ。ばっかみたい。

じゃ、ナミちゃんさー。どうやって出られたわけ?

3の時間に入っちゃったら、同時に出れるはずないじゃん。」


その意見にすがりつくように、

クラスのみなが、首を立てに振った。


それに対して、ミナコはお構いなしに、


「運がよかったの。



白い世界に入ったとき、

ちょうど

白い世界の神様の近くに出られたの。」


とミナコは平然と答えた。


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第四話へつづく


白の向こう側 vol.2

それは、丁度小学校6年生の春。

もうすぐ卒業式とあって、

みな、どことなく浮き足立っていた。


そして、件の「3」の日を迎えようとする前日。

クラス中、「白い世界」の話で盛り上がりを見せていた。


さすがに、12歳ともなると、そんな話もうそだろう、と

判断がついてくる頃になる。

しかし、まだどこかに残っている幼い心が、

「白い壁」に触れることを拒んでいた。


いつも騒ぎ立てる男子が、周りのクラスメイトに対し

「おまえ、きょう絶対触れよ!」と

声を張り上げて、脅しをかけているとき。


ナミコが

「じゃ、私、触ってみるよ。」

とあっさり言ってのけた。


そのケロリとした表情に、からかっていた男子は

つまらなそうに顔を赤らめ、

周りの子は

「ナミちゃん、さすが!」とか

「えー、やめなよ・・・もしもだよ、もしほんとうに

白い世界に入っちゃったらどうするの?」とか、

「白い世界入ったら、次出てきたときに、

どんなとこだったか教えて!」と

みんな好き勝手にがなりたてた。

その時のナミコの表情は、

8年経った今も、まぶたの裏に浮かぶくらい、

不思議な決心に満ち溢れていた。



次の日。


ナミコはあっさり朝から教室の席に座っていた。

さすがに、昨日あれだけのことを吐いたミナコに

みんな呆気にとられたが、

そんな子どもだましな話を信じた自分が

馬鹿だった、と思い、

冗談半分で

「ナミちゃん、白い世界から、帰ってこれたの?」

と私は聞いた。


すると、答えは


「うん。凄く怖かったけど、出てこれた。

運がよかったんだな。」


であった。

 

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第二話へつづく