目撃 | 電車に乗ってるあたまの中

目撃

最寄駅では、「バリアフリー」を目標に、エレベータ設置工事が

かれこれ3ヶ月続いていた。


そんなに続くものなのか。


周囲の人間は、この工事中の光景に対して

感覚が麻痺してしまったようで、

工事中部分を

まるでもともとある障害物のように、

器用によけて足早に通り過ぎていた。


しかし自分は、毎日、工事の進捗具合が気になり

横目で観察していた。


いまのところ、目立った進捗、なし。



そんなある日、見てしまったのだ。


夜中11時すぎ。

残業で遅くなり、腹をすかせながら工事現場を通りかかった際。


工事現場のライトに照らされた道路の「穴」

の中に数人の男が担架のようなものを

取り囲んで立っている。


そして、その担架を覆うように広がる白い布の上端から

女のような顔、正確に言うと、目から上の部分が

除いている。


目は見開いている。

鼻から下は隠れているため、

確かな表情はわからないが、

目だけをみると、無表情。


驚きのあまり立ち止まってしまった。

まわりの通行人は、何事もないように通り過ぎていく。



死んでいるのか?


異様な光景に目を凝らそうとした瞬間。


女がこちらを見た。

無表情に。


全身毛穴がざわつき、

逃げるようにその場を去った。


それから1ヶ月。


今、私は完成したエレベータを

未だ利用できないでいる。