白の向こう側 vol.5 | 電車に乗ってるあたまの中

白の向こう側 vol.5

先ほど一瞬見せた穏やかな笑顔は

ナミコのやつれた顔から消え去り、

また目だけ爛々と輝いた、張り付いた笑顔へと戻っていた。


なぜか私は、恐怖のどん底に突き落とされる思いと、

昔のナミコに対する、小さいけど大きい仕打ちへの恥ずかしさで、

グラグラと目の前が揺れるのを感じた。


「あ・・・あの時は、ごめんね」

私は上ずる声を絞りだし、ナミコに謝罪した。

すると、意外なことにナミコはきょとんとした

顔をし、

「え?やだ、まだ気にしてたの?」と。


そして、あの、小6のときと同じ、堂々とした態度で

「でも、そうだなー。あの時、みんな信じてくれなかったけど、

「白い世界」へ行ったって、あれ、本当だったんだよ。」

といった。


私は思わず、眉間に皺をよせ、

「え・・・?」

といってしまった。しかし、今度は眉間の皺を伸ばす余裕がない。


そんな私に構わず続けるナミコ。


「あの夜、白い壁にぐいぐい吸い込まれていくとき、

私、本当に怖かった。

恐怖で声がでなくて、涙はあふれて、

心の中で『神様!』って叫んだわ。


そしたら。

現れたのよ、神様が。

真っ白な世界と同じくらい、顔はまぶしくて

よく見えなかったけど、大きなやさしい手をしてて。

大丈夫、こっちだよ、って

手を引いてくれたの。


気付いたら、家の台所の壁際に戻ってたわ」



・・・なにいってんの、このコ・・・。


呆気にとられながらもなんとかして

「やだ・・・からかわないで、ナミちゃ・・」

といいかけたと同時に、遮るようにナミコが

大声を出した。


「からかってなんかないわ!

あの時だってそうだった。

りっちゃんがあんな大声だして、騒がなければ!

私だってあんな思いをしないで済んだのよ!!」


その一言に、頭が真っ白になる。

・・さっき、「もう気にしてない」っていったじゃない・・・

いや、違う、そんなことはどうでもいい。

このコ、、狂ってる。


興奮でぐりぐりと大きな目を動かすナミコは、

はっきりいって、不気味以外のなにものでもなく、

早くこの場を立ち去りたかった。


すると、目の前に視界を遮る

何かが現れた。


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第6話へつづく