居場所 vol.12(最終回) | 電車に乗ってるあたまの中

居場所 vol.12(最終回)

 

てっぺんまで登りつめ、外の空気に

触れられる時がきたのだ。

要塞の、世界一高い場所まで

登りつめたのだ。

 

さまざまな妄想が波のように押し寄せる中、

手を、間口の縁に掛け、

一気に体を引き上げた。



出れた!


興奮しながら、

疲れているのも忘れ、

出口の淵に立った。


荒い息で咳き込み、

眩暈を覚えながらも

必死で周囲を見回した。





どんっ。


首のあたりが大袈裟に一回、脈を打った。











出れてない。


自分は、「そこ」から、


出れていなかった。



「出口」の淵は、無機質な金属の床へと続いており、

四角い一つの部屋を形成している。

今上がってきた「穴」は、ちょうど今の四角い部屋の

中央にぽっかりあいている状態だった。


不思議な部屋だ。

四方八方、「つなぎめ」のない金属の壁。


青空だとおもっていたのは、

青い

「天井」

だった。



よくよく見ると、

「天井」は唸る機械音とともに、僅かではあるが

動いている。


そう、アンティークの時計のように、

時間とともに、空の「画像」が動いているのだ。




一体なぜ・・・。

どうして、誰がこんなことを。。



今までいた、円形の穴とは打って変わって、

ここは隅から隅まで照明で照らし出された

明るい空間。


それだけに、もう、「逃げ場」がないことが

嫌でも身にしみる。



と、そのとき。


だだだだ、と「天井」が音を立てた。


だだだ、、、だだ。


まただ。

右から左へ、左から右へ。


それは、人の足音である、と気付くのに、

そう時間を要しなかった。


そして、かすかに聞こえる、人の声。

人だ、人がいる!




声にならない声で、叫んだ。


だれか!ここだ!

出してくれ!



しかし、返ってきたのは、

その言葉を無視するかのような、

慌しい足音だけ。


だれも、自分の存在など、気付かないかのように。




かつて、自分は高い土地に築かれた、

要塞にいると思い込み、

人々を眼下に見下ろす位置にいると、

本気で信じた。


青い天井は、生きる唯一の希望だった。



そして、・・・絶対出れるとおもっていた。




しかし、今は、一切の希望が絶たれた。

何回も叫んだが、

極端に疲労するだけだ。


おれは、一体どうすればいいんだ。

おれはどうしてここに。

おれは誰なんだ。



いま、自分以外にあるもの。


それは、暗く湿った丸い空間と、

冷たく、明るい四角い空間の、

二つの


「居場所」だけ。


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