居場所 vol.10 | 電車に乗ってるあたまの中

居場所 vol.10


暗闇になれた目に映し出されたものは
壁の「窪み」だった。


始めは、石壁の一部が欠けた程度かと思ったが、
よくよく見ると、
最初に発見した窪みの更に上にも
ところどころ、不規則に窪みが見えた。



その窪みは


まるで壁面の梯子のような具合に
上へ、上へと伸びている。


この窪みが、頭の上に広がる出口まで
続いていれば、出れる!


その考えが浮かんだ瞬間、
再び「出れるかもしれない」ことへの
興奮と、生への執着が、
激しい鼓動と共に押し寄せてきた。



しかし、問題があった。


まず、窪みが浅めで、

しかも
指4本を詰め込むと、
もういっぱいになってしまう程度の
大きさしかない。


そして、一番の問題。

一番最初に手掛け・足掛けとなる窪みが、
かなり上部にあるのだ。


辛うじて片手でくぼみに触れる程度のことはできるが、
次の上部窪みへと進むなんて芸当は
出来そうもない。


思わずジャンプをしてみたが、
窪みに手を掛ける以前の問題で、
「ただジャンプしただけ」で終わってしまった。


またか・・・また出られないのか・・。
と再び絶望が押し寄せそうになった瞬間、
はっとした。


部屋の中央に未だじっしりと
鎮座している、壁から引き出されたブロック。


・・あれを踏み台に・・できるよな?


あわててブロックに駆け寄る。
ブロックを横から押すと、
以前引き出した時のように


ココココココ」と

音をたてながら、動かすことができた。


猛烈な勢いでブロックを壁面へ寄せる。


緊張で痺れる足を
勢いよくブロックの上へ駆け上がらせる。



余裕で届く!


最初の窪みに左手、
そして次なる上部の窪みに右手!

なんという発見だ!


「今度こそ」という希望に
眩暈がしてブロックから転がり落ちる。

しかし、興奮のあまり、痛みも感じない。


窪みの配置からして、
のぼり始めは、両手だけでのぼらなくてはならないが、
そんなこと、ここから出られないことに比すれば、
全く苦ではない。


一通り喜びを噛みしめた時点で、
日の出てるうちに登ろう、と決心し、
再びブロックに両足を置いた。